Kは、しばらくは最近の活動先で興味深く感じたことや仲の良いメンバーとの笑えるエピソードなどを面白おかしく話してくれていました。わたしにはそれが強いて頑張ってわたしを楽しませようとしてくれてるのだと分かり、それゆえ調子を合わせてやりとりしつつも本気で笑える心境になるには至りませんでした。やがて話題も尽きたのか、Kがなんとなくもじもじした様子を見せるようになり、わたしは他にしようもなく、ついに思い切って水を向けてみました。「K、ほんとは何を話しにきてくれたの?もちろんわたしの休業について、でしょ?」「んー… まぁ、確かにそうなんだけど… 別に、あの、元気でただ休んでるってだけならいいんだけど… あは、『元気で休んでる』なんてことはないか」Kはもともとけっして如才ないタイプって感じではない子で、わたしはせっかく心配してきてくれたKを逆に責めてる気がして心苦しくなっていました。それで、自分的には損で恥を承知の上で言わずもがなのことを口走ってしまったのでしょう。それがせめてもの誠実さになるかとも思って。



「あの、あのね、K。Kも似たようなアンチのイヤさを経験してるから、それでそういう落ち込みとか恐怖をわたしも感じてると思ってると思うけど… でも根本的にちがうことがあって…」わたしはもう取り繕いようが見つからなくてはっきりと言ってしまうしかありませんでした。「もしかしたらKも、他の一部の先輩も気づいてるかもしんないけど… わたし、わたしレズなの。男の人は嫌いなの、怖いし、気持ち悪いの。そしてアンチの一部の連中はそれに気づいていろいろネチネチ言ってくるの」Kは、どう言っていいか分からないようではあるものの、特に「衝撃の告白に驚いた」みたいな表情ではありませんでした。わたしにはなぜだか、それがいちばん心慰むことに感じられました ー レズではないかと感じつつもこれまでKはわたしと距離を置いたりすることはなかったんだ、と。



1分くらいか、もしかしたら20秒くらいか経って、Kは口を開きました。「えっと… なんていうんだろうな… Rがレズビアンであるというのは、なんていうか、Rの個性?というか、人格の一部、であるわけじゃない?で、それはアンチのどうこう言うことじゃない。で、えっと、だから、Rが気にして休んじゃうのはアンチの思うつぼっていうか、喜ばすだけ… みたいな」それはKの、実にKらしい、そして精一杯の優しく心強い言葉だと思いました。でも、その時のわたしはなんとなく、もっともっとと欲張ってしまったのだと思います。「でも、Kは気持ち悪くない?チビブスのレズが自分のことをそういう目で見てるかもしれない、って知ってながら一緒にアイドルやってられる?」「そんな言い方しちゃダメだよ、R!Rは別にブスじゃないし、一緒にいたって別に何かするわけじゃなし」



わたしは、頭では、そして心の大部分でも感動させられると同時に、けっしてKがわたしをそういう対象としては見てはくれないだろうということを改めて悟った気がしました。それで、もう恥のかき捨てだとばかりに無茶な出方をしてしまったのです。もちろん、Kの優しさにつけこむようにして積年の欲求を晴らそうというズルい気持ちがあったことも否定できませんが。「K、わたし、Kが好き。こんなこと最初で最後だから、お願い、キスさせて」面食らった表情のKの返答を待たず、にじりよって肩を抱き、唇にキスしてしまいました。



数秒間、Kは我慢してくれてたのでしょうが、わたしが舌を差し入れようとするのには堪えきれず、肩を押して突き放してきました。「ちょっ… R。そういうのはイヤ。女同士とか抜きにして、そういうのって…」Kの言わんとするところは予測の範囲内でしたが、わたしはなおも強引にもう一度Kの肩に抱きつき、ほっぺに、耳許にキスし、Kの綺麗な髪の匂いを思いっきり吸いこみました。「ちょ… ヤだ!ヤだってば!」身をよじって抵抗するKの、わたしよりちょっとだけ大きい胸に右手をかけた時、わたしはついに突き飛ばされました。



立ち上がり涙目になったKは、それでもいつもの知的で理性的な言葉で、諭すように言いました。「R… そういうこと相手の同意もなしに強引にするのは絶対ちがうと思う。あたしは、ずっと友達だったRを嫌いになりたくない。だからこんなこと、これからはしないで」そう言ってKは帰っていったのでした。



取り残されたわたしはその晩、泣いて泣いて泣きはらしましたが、どういうわけか次の日の朝には、何かすっきりしたような心持ちでマネージャーさんにメールしてすぐにも活動を再開したい旨連絡していました。Kへの恋心が完全に望み薄なものになった今、アンチがもたらす害なんてなんぼのもんでもない、って奇妙な開き直りの決意が生じていたのでしょう。2日後、最初にKと現場で顔を合わすのはもちろん怖い瞬間でしたが、Kは少し陰った表情・声音ながら「よかった、R、復帰なんだね?」と言ってくれたのでした。



何も知らないマネージャーさんや他メンバーにはその変化は見えなかったことでしょうが、わたしはKにべたべたするのを前以上に抑え、Kもその意味を汲んでか差し支えのない程度の態度をキープして、2人ともいわば「覆面」で、アイドル活動のお約束を続けていけました。その後、ひょんなきっかけでわたしには他グループに秘密の恋人ができ、実は「そう」であったある先輩と心を許して話のできる関係も持てるようになり、安泰のうちにアイドル生活を送りました。でも、「ずっと友達だったRを嫌いになりたくない」と言ってくれたKとは、あれ以降本当に友達に戻れたとは言えないままで終わり、恋をするたびにわたしはその「失恋」を羞恥と感謝と後悔とともに思い出すのです。



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